誕生と成長をみつめて-笹井史恵の乾漆フォルム
漆と麻布を塗り重ね、自由にかたちを創りだすことのできる乾漆という歴史ある漆芸技法を主体に、笹井史恵は幾つものふっくらとしたフォルムを生み出してきた。時にユーモラスでふくよかなそのアウトラインは、果物や野菜をモチーフにしたものから、海のものとも陸のものとも言い難い生きもののイメージをもつ作品に至るまで、ほぼ一貫している。さらに、塗りたて仕上げによる滑らかな肌合いが、作品の瑞々しさを引き立てる。漆芸の必然である制作時間の長さにもかかわらず、作品はいずれも今生まれたばかりのような新鮮な息遣いを示しているのである。そこには、昨年実生活でも、もぎたての果実の如き一つの命を誕生させた作家の、生きとし生けるものに対する柔らかな、そして期待に満ちたまなざしがある。
外舘和子(工芸評論家・工芸史家)