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CRITIC

2015年8月20日 浅野陽子 日本漆工協会 季刊誌「和の漆」

 京都は伝統的な町だと思われているが、その反面、外国人が多く大学も多い国際的な町でもある。歴史をさかのぼれば、大胆な意匠性を持つ琳派を生んだ地だけに、もともと自由闊達な気風があると言う人もいる。
「作家仲間をみると、京都には、案外、新しいことをする人も多いように思います。自由なことをやっても怒られない雰囲気もありますし」
 そう言って笑う笹井史恵さん自身の作品も、かなり自由だ。
 笹井さんは漆芸作家、発泡スチロールを土台に、麻布と和紙を貼り重ねて、その上に漆を塗って作品を作る。乾漆技法は、漆芸の中でも自由な形と大きさで、軽い作品を作ることができるので、作家の発想をどこまでも広げることができる。


–触ってみたくなるような肌と朱の美しさにこだわる–

 笹井さんは現在、京都市立芸術大学で教えながら、作家として個展やグループ展を中心に活動している。フランス、イタリアなど、海外での展示も多い。家庭では、三歳の息子を持つ母。理解ある夫の協力も得て、気負うことなく作家活動を楽しんでいるように見える。作品にはふっくらとした丸い形のものが多く、女性ならではの感性が溢れている。
「私は漆の手触りが好きなので、見る人が触りたくなるような作品を作っています。私の作品を通じて、漆の質感や手触りを楽しんでもらいたい」
 ふっくら丸い作品の時期を経て、今、笹井さんはひだのある形に熱中している。
「私は漆が美しく見える形にこだわっているのですが、ひだのある形は、面が変わると光の映り込みが変わります。それがとても面白いし、美しい」
 笹井さんの作品は全て朱で仕上げられているが、朱の塗り面はさまざまなバリエーションを持っている。磨きをいれたツヤツヤの肌、本朱塗り立てのとっぷりとした肌。色のバリエーションも豊富なので、笹井さんは朱が好きだ。その朱の塗り面に、ひだが新たな変化をもたらした。折りたたまれたひだの奥に深い影が出現したのだ。
 ひだは、金魚や「かさね」シリーズの作品を生んだ。特に、丸い胴体にひらひらした尾を持つ金魚は、笹井さんのお気に入りだ。


–制約の中での自由を楽しむ–

 金魚は、ある展覧会の企画から生まれた。複数の若手工芸作家(蒔絵、乾漆、竹工芸、截金ガラス、白磁)がコラボレーションして互いに作品を作り合うという企画だ。笹井さんは、その中で金魚好きの截金作家のために乾漆で金魚を作り、截金作家は金魚の尾びれに截金を施した。
 このコラボによって、笹井さんは、ある制約の中で作品を作る楽しさを発見したという。
「コラボのときは、コラボ相手のことだけを考えて作品を作りました。それは、これまでやってきた、自分の思いのままに作品を作るときと違っていて…。それ以来、なにか制約がある中で作品を作るということが楽しくなってきました」
 コラボはひとつの制約だった。しかし、制約は笹井さんの自由な発想を妨げるものではなかったようだ。それどころか、制約のよって新しいものの見方を得、そこから新しい形が生まれている。
 自由を謳歌していた作家の作品に、制約がどのような変化をもたらすのか。これからの発展を楽しみにしよう。

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